フルマラソンを走るランナーの多くが目標にする「サブ3」(3時間切り)。しかしサブ3.5までは達成できたものの、サブ3に届かず伸び悩んでいるという方は多いでしょう。まさに、私自身がそうでした。あと数分というところでタイムが縮まらず、「次こそは」と何度も挑んだことを覚えています。私の場合は約半年を掛けて抜本的にトレーニング内容を見直し、さらに肉体改造も行ってサブ3を達成しました。さらにサブエガ(2時間50分切り)の記録を果たし、現在はその経験をランニング指導に活かしています。ここでご紹介するのは、そうした経験からサブ3を目指すランナーに向けておすすめしたいトレーニング方法です。もちろん各個人の課題によって取り組むべきトレーニングは異なりますが、一つの参考としてご覧ください。筋トレを中心とした身体作り最初に取り組みたいのが身体作りです。体重が重いならば、減量も含めて考えましょう。42.195kmをできる限り速く走るのであれば、やはり体重(=運ぶ荷物)は少ないに越したことはありません。しかし筋力が少なければ大きく力強い走りができず、逆に走力アップが遠ざかってしまいます。そのため、「筋力を高めつつ体重(=脂肪量)を減らす」ことに重点を置くと良いでしょう。そこで取り入れたいのが、積極的な筋力トレーニングです。もちろん、ただ筋量を増やせば良いというものではありません。もちろん筋力増加によって基礎代謝が高まれば、脂肪を燃焼しやすくなるでしょう。しかし、その筋肉を“走る”ことに活かせなければ意味がなく、ただ重りを増やしてしまうようなもの。そこで意識したいのが「体幹」と「ポステリアキネティックチェーン」に属する筋肉。身体作りと同時に、速く走るための土台を築くことが主な目的です。体幹とは?ここ数年でよく耳にするようになった「体幹」は、その名の通り“身体の幹”となる部分のこと。腹筋部を主として取り扱われることが多いですが、実際には胸や腰、背中なども含めた胴体部分の筋肉群を示します。安定して効率性の高いランニングフォームの獲得・維持、また走るための無駄のない力の伝達などにおいて、重要な働きを担う筋肉です。ポステリアキネティックチェーンとは?PKCと略して呼ばれることもあり、英語で「Posterior Kinetic Chain」と表記されます。筋肉は多くの場合、動作する際には鎖(=チェーン)のように連鎖するもの。その中でポステリアキネティックチェーンは、脊柱起立筋や大臀筋、ハムストリングスなど身体の後ろ側に位置する筋肉群です。ランナーの中には、あまり後ろ側の筋肉を意識的に鍛えている方はいらっしゃらないかもしれません。しかし実際のところ、走る際にしっかり全身を連動させて動くためには、とても重要な筋肉群と言えます。筋力トレーニングの頻度体幹トレーニングでは、主にインナーマッスルが鍛えられます。これらは小さく回復するまでの時間も短い筋肉のため、筋肉痛がなければ連日でも行って構いません。なお、プランクに代表されるような“固める”体幹トレーニングのほか、動作しながら鍛える“スライドコアトレーニング”もおすすめです。それ以外の筋肉群については、超回復なども考えて2~3日に1回の頻度が良いでしょう。筋肉痛や疲労感が残っているときは控えるか、部位を変えて行ってください。自重トレーニングだけで物足りなさがあれば、負荷を高めて行います。スポーツジムに通ってマシントレーニングを行うほか、自宅にあるダンベルやバーベル、メディシンボールなどの用具を用いるのもおすすめ。例えばダンベルの代わりに砂や水を詰めたペットボトルを用いるなど、周囲にあるもので代用も可能です。重点的に取り組みたいトレーニングメニュー走ると言っても、さまざまなトレーニングバリエーションがあります。サブ3を目指すうえで是非とも取り入れたいトレーニングメニューを、ここで3つに絞りご紹介しましょう。1. ペース走あらかじめ設定したペースを維持して走るトレーニングです。特にサブ3を目指すなら、その際のアベレージペースである「4分15秒/km」のペース走を行ってみてください。最初は短い距離しか走れなくても構いません。回を重ねる毎に、1kmでも良いので長く走り続けられるように意識します。つまりサブ3のペースを身体で覚えながら慣れさせ、そのペースで走れる距離を少しずつ伸ばしていくのです。距離が伸びることで成長を感じられ、走ることへのモチベーションアップにも繋がるでしょう。2. インターバル走最大酸素摂取量(Vo2MAX)が向上すると多くの酸素を身体に取り込めるようになり、持久力アップなどの効果が見込めます。そのために有効なトレーニングの一つが、インターバル走です。さらにインターバル走はや心肺機能の強化、そしてスピード持久力を高めるのにも有効なトレーニング。具体的には疾走と緩走(jogなど)を繰り返すことで行い、疾走は設定した距離に対して全速力の80%程度で走ります。最後まで疾走ペースを維持することが重要なので、余力が残ったり、逆にラストでペースダウンしたりしないよう注意しましょう。スピード強化のために400mなどのショートインターバルも良いですが、マラソンでは主に1000m以上のロングインターバルが行われます。3. 坂道走私はサブ3を達成した際、よく峠などを利用した坂道走を行っていました。坂道走では上りと下りで、それぞれ以下のようにさまざまな効果が期待できます。なお、できれば何kmも続く長い上り坂で行うことが好ましいですが、実際には難しいという方が多いでしょう。そうした際は、たとえ1km未満でも何往復と繰り返して距離を積むことで、十分に効果が期待できます。上り坂上り坂では同じペースで走っても、平地と比べて心拍数が上がりやすくなります。その状態を維持して走るため、心肺機能の強化できるトレーニングです。また、しっかりお尻やハムストリングスなどの筋肉を使わないと、大きな推進力が得られません。坂道走を通じて、自然とこれらの筋力強化が目指せるでしょう。これらは平地でも重要な役割を果たし、力強くダイナミックな走りの獲得、そしてランニングエコノミーの向上に重要な筋肉です。下り坂下り坂では自身でブレーキを掛けない限り、平地では出ないようなスピードで走ることができます。その動きに身体が慣れていくことで、スピード強化に繋がるでしょう。このように通常では出せないスピードで走るトレーニングを、「オーバースピードトレーニング」と呼びます。ただしスピードを上げ過ぎると危険なほか、心拍数が上がり過ぎて苦しくなるかもしれません。そのため、自身の実力に応じた調整が必要です。また、42.195kmという距離の中では、足が地面へ接地するたびに着地衝撃を受けます。この衝撃に耐えきれる筋力がなければ、疲労して後半失速したり、走れなく(動けなく)なったりしてしまうでしょう。下り坂ではどうしても “落ちる”ような形で地面に足が接地するため、平地より大きな着地衝撃を受けるもの。繰り返しトレーニングすることで、この衝撃に耐えられるだけの筋力が養われていきます。トレーニング頻度ここで取り上げた3つのトレーニングメニューは、いずれも強度の高いものになります。そのため、あまり頻繁に行ってはいけません。休養やジョギングなど強度の低いトレーニングメニューと組み合わせ、それぞれ週1回程度で実施してみてください。疲労が残って動きが悪い状態で行っても大きな効果が得られませんので、そうした際は別のトレーニングメニューに切り替えます。ウルトラマラソンに挑戦してみる42.195kmを超える距離を走ってみるのもおすすめです。サブ3を目指すだけの走力があれば、例えば100kmマラソンならば完走も夢ではありません。もちろん対策は必要ですが、「フルマラソン以上の距離を走り切った」経験はサブ3攻略を後押ししてくれるでしょう。その理由は、ウルトラマラソンにとって42.195kmは“通過点”に過ぎないから。100kmマラソンであれば、まだ中間点にも達していません。そのため、一度100kmという距離を経験しておくと、フルマラソンが短く感じられます。実際、私はよく100kmを含めたウルトラマラソンに参加しますが、残り30kmになると「もう終わりが近づいた」という感覚になります。フルマラソンであれば、ちょうど身体が温まって動きが良くなり始める頃でしょうか。そのため、ウルトラマラソンを経験する以前と比べると、フルマラソンは短く感じられるようになりました。マラソンでは身体だけでなく、気持ちがとても重要。いくら走力のある選手でも、気持ちが切れれば走り続けることは難しくなります。特にサブ3という目標では、いかにゴールを目指し続け、自分は達成できると信じて走り続けられるかが重要です。例えば「まだ残り30km」ではなく「もう残り30km」と考えられれば、ゴールが身近に感じられるのではないでしょうか。ウルトラマラソンの経験は、フルマラソンにおける気持ちのうえでの強さを与えてくれます。もちろん大会に出なくても、トレーニングでフルマラソン以上の距離にチャレンジしてみるのも良いでしょう。焦らず計画的にサブ3を達成しようサブ3を達成したいからと言って、無理なトレーニングは禁物です。疲労や痛みがあるときは、走らず休むことも考えてください。焦って走り込み過ぎると、怪我を起こして走れなくなるなど本末転倒な結果になりかねません。定期的な休養も、重要なトレーニングの一つです。まずは、どの大会でサブ3を目指すか目標レースを決めましょう。コロナ禍では大会中止が多く、「本当に開催されるのか」と不安になってしまうかもしれません。しかし「いつか達成しよう」と考えるより、「この大会で達成しよう」と考えた方がモチベーションも高まるはず。そして逆算し、計画的にトレーニングメニューを組んで取り組んでください。もちろん、身体作りが必要ならこれもまた同様。ここでご紹介した内容を参考に、サブ3達成を果たしましょう。