マラソン大会では、その多くで“辛い場面”に出くわします。坂道などコースに関するものもあれば、思わぬ悪天候に見舞われることも少なくありません。これらは疲労の要因になるだけでなく、ときに前へ進もうという気力も奪っていきます。最後までマラソンを走り切るために、具体的な場面ごとにポイントをご紹介しましょう。走る技術はもちろんですが、特に精神的な負担を軽くしてあげることが大切です。上り坂多くのランナーが避けたいと考えるものに、上り坂が挙げられます。しかし42.195kmとうい長さですから、同じ場所を何周回もするレースを除き、どうしても坂道は避けられません。そのため、まず「坂道はあるもの」として考えておきましょう。序盤は元気があるため、つい上り坂でもペースを維持して駆け上がりがちです。しかし平地と同じペースで走るということは、それだけ筋力を使い疲労が蓄積してしまいます。シリアスランナーであれば、それも一つの戦略として考えられるかもしれません。しかし目標が完走なのであれば、もっとも重視すべきは「できる限り疲労を溜めない」こと。力まずリラックスして、淡々と登っていきましょう。その結果、多少ペースが落ちてしまっても構いません。上りがあれば下りもあり、下り坂では逆に自然とペースが上がって取り戻せます。平地も上り坂も(あるいは下り坂も)、同じような感覚で走り続けるようにしてください。なお、上り坂を楽に走るためには、以下を意識的に行うこともおすすめです。腕を大きく前方上に振り上げる(=腕振りで身体を持ち上げる)みぞおち辺りから前方上に引き上げられているような意識を保つ(=腰を落とさない)また、上り坂になったら視線を落とし、傾斜を見ないようにしてみてください。つい上り終わる地点を見てしまいがちですが、特に疲れた後半になると「まだ上り終わらないのか…」とネガティブな感情が出てしまいます。進んでいれば、当然ですがやがて坂道は終わるもの。身体の動きやリズムだけに集中して走ると、いつの間にか坂道を登り切れるでしょう。下り坂下り坂はどうしても身体が上下に動きがちです。そのため、足が受ける着地衝撃が大きいため、疲労の原因になりかねません。下りは走りやすい(自然と進む)イメージを持たれるかもしれませんが、後半になると、むしろ下り坂がキツイという声も。これは、やはり下り坂を走った際、平地や上りと比べて大きな衝撃負荷が足に加わるためです。下り坂のポイントは、できるだけ上下動を押さえること。そのためには身体を前傾させ、できるだけ平行移動に近い動きを意識しましょう。腕は大きく振らなくて構いませんので、とにかくリラックスしておきます。身体を前傾させると重心移動で前に進めるので、足は踵を上げるだけでも十分です。恐らく、トレッドミルを走っているような感覚で、自然と足が回って走れるでしょう。また、下り坂はピッチが上がり勝ちです。しかしピッチが上がると、心拍数も上がってしまいます。過度なピッチは避け、できれば平地と同じ程度を維持してください。そのためには、ストライドを広げることが大切です。ストライドが広がることで足が大きく回転し、その分だけピッチが上がらないよう調整できます。強い向かい風風が後ろから吹いてくれれば良いのですが、残念ながら向かい風で走らなければならないシーンもあります。思うように進まず、ときに風に押し返されているような感覚になるかもしれません。こうした強い向かい風では、無理に力で押し切ろうとしてしまう人が多いでしょう。しかし力に頼るほど、どんどん疲労が蓄積してしまいます。そのため、向かい風のときこそ力まないこと。私はいつも風に「ありがとう」と思いながら、身体を前傾させて風に預けるようにして走っています。すると、向かい風が身体を支えてくれるので、いつもより楽に前傾姿勢を維持できるのです。前傾になると重心移動による推進力が得られます。足で蹴り出す力を増やさなくても、しっかり踵を上げて足が回転することで前に進んで行くはずです。もちろん、力に頼って走るのに比べればペースは落ちるかもしれません。しかし無理に風に抵抗して走れば、それだけ早く疲労して走れなくなってしまう可能性が高まります。ワンウェイのコースを除いて、最初から最後まで向かい風というレースはほぼありません。追い風とまでいかなくても、風を受ける方向は少しずつ変化していくはずです。あるいは走っているうちに、風が弱まってくることも考えられます。そういうタイミングでしっかり走れる力を残すためにも、向かい風は挑まず、上手に使わせてもらいましょう。雨降り雨が降ると視界が悪く、身体が濡れて走る楽しさが半減…という方は多いでしょう。何を隠そう、私も雨は嫌いです。とはいえ、天候ばかりはどうにもなりません。大会当日を雨で迎えるのはもちろん、走っていたら途中で降り出すということもあります。そんな中で楽しく走るには、まずウェアなどの準備を整えて臨みましょう。まずは天気予報を確認。スタートから雨なら、身体が温まるまではビニール袋や使い捨ての雨合羽などで雨から身体を守ります。途中で降り出しそうなら、もちろん同じようにビニール袋など持って走るのも一つの方法です。ただしスタートと異なり、途中ならすでに身体も温まっています。走れなくなってしまうと雨濡れで冷える可能性は拭えませんが、例えばアームカバーを付けておくなど、雨ではなく冷え対策だけでも乗り越えられるはずです。気温が高い時期であれば、むしろ雨は恵みになります。熱くなった身体が程よくクールダウンされ、むしろ快適に走れるでしょう。寒いと雨は難敵ですが、それなら「冷える前に早く走れ」と天気が背中を押していると考えてみてください。あるいは「ただ完走させてもつまらないから、雨で試練を与えてくれてる」なんて考えるのも良いでしょう。気持ち一つで、雨はむしろ大会を楽しむためのスパイスになります。痛みや体調不良は無理しないここで取り上げた他、いきなり体が痛くなったり、具合が悪くなったりすることがあるかもしれません。私もレース中、足を痛めたり熱中症になったりした選手を助けたことが何度かあります。せっかく出場した大会ですから、誰でも「なんとかゴールにたどり着きたい」と考えるのは当然です。本来であれば、ここで痛みや体調不良を乗り越える工夫をご紹介すべきかもしれません。例えば痛みなら、痛み止めを飲んで走るという人も少なくないでしょう。しかし、痛みや体調不良を感じた際には、無理しないことも大切なことです。無理したことが仇となり、大きな怪我となってしばらく走れなくなったり、体調悪化で倒れてしまったりしては意味がありません。その経験をバネに、改めてチャレンジすることも考えてください。なぜそうなったのかを振り返り、同じことが起きないよう改善を重ねることも、長い目で見れば楽しく走り続けるために必要なことです。