まだコロナ禍は予断を許さない状況ではあるものの、緊急事態宣言が明けて少しずつマラソン大会が開催されるようになってきました。私も先日、約2年振りの大会「柴又100K」に出場しましたが、多くのランナーと共に走るのは楽しいものです。この流れを受け、これからフルマラソン完走を目指そうという方も多いのではないでしょうか。しかし、誰だって最初は不安なもの。まして42.195kmという距離は、実際のところベテランランナーだって何が起きるか分かりません。私は過去40回以上のレースを走破していますが、マラソン完走にもっとも大切なのは“楽しむ”ことだと考えています。もちろん辛さはありますし、中には「忍耐」「我慢」だという声も多いでしょう。しかし、それも含めて楽しむ気持ちを持ち続けることが、フルマラソン完走の重要なポイントだと思うのです。では、そのために何が必要で、どうすれば良いのか。これまでの経験をもとに、マラソンを最後まで楽しく走り切るためのコツについてご紹介します。どんな困難も楽しみに変えるRPG思考これまで何度もマラソン大会に出場していますが、思い返すと色んなことがありました。いきなり腹痛に襲われて何度もトイレに駆け込んだり、シューズが途中で壊れてしまったり。いきなり、土砂降りに遭ったこともありました。あるいは、転倒して足を痛め、走り終えてから見たら捻挫していたことも。このように、どんな大会でも100%思い通りに展開するとは限りません。完走に向けて準備を万全に整えることは大切ですが、このことは頭の中に入れておいてください。それが、マラソン大会を楽しむための土台になります。「いつ、何が起きるか分からない」そう思っておけば、突然の困難でも冷静に対応できるはず。そのうえで、おすすめなのが物事をポジティブに捉えるRPG思考です。多くのRPGゲームは主人公がレベル1からスタートし、モンスター討伐やクエストクリア、ダンジョン攻略などを経て成長。いくつもの中ボスを倒し、最後にラスボスに打ち勝ってハッピーエンドを迎えます。モンスターを倒すには、よほどレベルが高くなければこちらもダメージを受けます。クエストは色んな場所に行ったりモノを集めたり大変ですし、ダンジョンは迷ったり落とし穴から落ちたりするかもしれません。ボス戦は一筋縄ではいかず、何度も「もう無理じゃない?」という場面に遭遇するでしょう。しかし、それを乗り越えるからこそ、レベルアップやクリアした喜びが待っています。これを、マラソンに置き換えてみてください。日々の練習でレベルアップを重ねるのは、モンスター討伐と同じ。大会本番でも1歩1歩がモンスター討伐であり、その積み重ねがゴールへと繋がっていきます。喉が渇けばスムーズに吸水を取り、お腹が痛くなったら素早くトイレに入ってクエストクリア。コースの決められたマラソン大会で迷うことはありませんが、アップダウンなど難所が待ち構えています。後半になると体力(=HP)が残り少なくなり、もしかしたら「ゴールは無理かも…」なんて考えてしまうかもしれません。いわゆる“30kmの壁”(30km付近から走るのがきつくなる)なんて、その最たる例でしょう。補給や立ち止まってのストレッチ等で回復を目指すも、なかなか効果が得られにくくなってくるかもしれません。しかし、できることは山ほどあります。制限時間内である限り、たとえ歩いてしまっても、1歩を重ねれば必ずゴールできます。そう、マラソン完走を目指すうえでのラスボスは、痛みや疲労ではなく制限時間(大会によって関門という名の中ボスも)。攻撃はしてきませんが、間違いなく迫ってくる強敵です。できることを探し、駆使しながら体中の筋力と体力を総動員させて、どちらが強いか勝負しましょう。こうして何かが起きるたび、「ゴールするための試練だ」「向かい風…敵が風魔法で攻撃してくる」「キツイということは、ラスボス(ゴール)は間もなくだ」とイメージしてみてください。ちょっと気持ちが楽になり、「やってやろうじゃないか」と奮い立つのではないでしょうか。万人にハマる方法ではないかもしれませんが、こうした思考変換はマラソンを最後まで楽しむのにとてもおすすめです。他のランナーや応援を味方につける昨今はコロナ禍のため、あまり大きな声を出すことができません。とはいえ、マラソン大会では周囲に大勢のランナーがいるほか、沿道からも声援が送られることでしょう。こうした“他の人”が、実はマラソン大会ではとても力になります。何を隠そう、他のランナーは自分と同じように走ることを楽しみ、そして同じゴールを目指しています。後半になれば、きっと同じように苦しい中で走っていることでしょう。特に辛い局面では、見知らぬ相手でも声を掛けてみてください。「頑張りましょう」「なかなかキツいコースですね」など、何でも構いません。もちろん誰もが会話に応じてくれるわけではないですが、意外と皆さん話してくれます。なぜなら、相手もまた同じような思いで走っているから。もしかしたら会話が盛り上がり、話しながら伴走なんていうことになるかもしれません。私も先日、初めてお会いした方と会話が弾んで、5kmほど一緒に走らせてもらいました。後半戦で疲れていたのですが、話しているとあっという間。疲れを忘れて走っていたのを覚えています。また、沿道からの声援は自分に掛けられていると思いましょう。みんな応援してくれている…と考えるだけで、やる気が漲ってくるものです。そして「ありがとうございます!」と、応援に応えてみてください。すると拍手や声援が、より一層大きくなります。声を出すのがキツければ、手を挙げて応えるのでも構いません。そのやり取りは背中を押してくれるだけでなく、楽しくなって疲労を忘れ去らせてくれます。私もよく沿道に手を振ったり声を返したりしていますが、気持ちが高揚してビックリするくらい軽快に走れます。自分の走りや目標と向き合い続ける周囲への声がけとは逆に、とにかく集中し続けるのも良いでしょう。自分の動き一つ一つに集中してみてください。感覚が研ぎ澄まされ、いつしか周囲の雑音が聞こえなくなってきます。その1歩1歩がゴールへの道のりであり、耳に入るのはマラソン完走という目標に近づく自分自身の足音だけ。まさに自分自身との闘いですが、上手くいくとニヤケてしまうほど気分が高ぶってきます。この状態を続けていると、いわゆる“ゾーン”という状態に入れることもあるでしょう。私も過去に何度か経験していますが、ゾーンとは極限にまで集中力が高まった状態。この状態では疲労を感じにくく、むしろ走るほどに感覚や動きが研ぎ澄まされていきます。まるで理想とするトップアスリートが乗り移ったかのように、いつも以上の力が発揮できることも少なくありません。簡単に入れるものではありませんが、ここぞという勝負レースでは、自分の走りや目標とひたすら向かい続けながら走ってみるのもおすすめです。身体だけでなく気持ちが大切フルマラソンを楽しく走り切るためのコツについてご紹介しました。走り方などのテクニックを期待された方は、意外な内容だったかもしれません。しかし、大会本番で走力が上がることはほぼありませんし、42.195kmも走れば疲れるのは当たり前です。ですから、大会では気持ちの面がとても大切になります。練習でしっかり走り切れるだけの身体を作り、大会ではその積み重ねを信じて走り続ける。RPG思考のように困難をポジティブ変換したり、周囲を巻き込んだりする余裕が持てればこそ、マラソンは楽しい中でゴールへとたどり着くことができるはずです。